むかしむかしあるところに、死体がありました。
青柳碧人
本屋さんでも一際目を引くこの表紙
昔話っぽい雰囲気は漂っているものの、中央でおじいさんは血を流して倒れているし、おおよそ昔話には似つかわしくない「死体」というワード。
気にはなりつつも、スルーしておりましたらば、この本がなんと本屋大賞にノミネートされているではありませんか。
気になる自分の感性を信じていいものか疑っておりましたが、本屋大賞にノミネートとあらば間違い無いでしょう。
ということで読んでみました。
内容は昔話の世界を舞台とした物語。
設定は基本そのままなのですが、その世界の中でなんと殺人事件が起きてしまうのです。
舞台となる昔話は、5つ
一寸法師
花咲爺さん
鶴の恩返し
浦島太郎
桃太郎
みんなが知る安心して読める昔話。
心優しい主人公とその周りの優しい人々。
そしてわかりやすい悪者。
優しい人は幸せになるし、悪い人は懲らしめられる。
そんな単純明快な世界の中で殺人事件が起こるなんて・・・・。
そして、犯人は?
その心のうちは?
個人的に好きなのは、花咲か爺さんと浦島太郎のお話でした。
まずは、花咲爺さん。
あんなに優しいおじいさんが恨みをかうはずがない。村人からも慕われている。
だけど、犯人は、、、。
いつの時代も人の心のうちはわからないものです。
ああ、恐ろしい。
そして、浦島太郎。
竜宮城へ行き、幸せな宴の時間を終えた後に殺人事件が起きてしまいます。
犯人が仕掛けた罠も見事だし、トリックも素晴らしい。
そして、最後の最後まで完璧な後始末を行った上で、さらりと与えるちょっとしたヒント。
緻密な計算の上で仕組まれた竜宮城の事件。
もうね、昔話って実は表面のお話しか知らなかったんじゃないの?って思えちゃうくらいに、私利私欲や隠された真実が絡んだ事件が起きるんです。
馴染みのあるお話がこんな変貌を遂げているのだけど、設定はそのままという面白さにグイグイ引き込まれて読み終わるのがもったいない気持ちになる本でした。